<僕の夏休み> 次女:星華 その4

 

 

お屋敷に飛び込んだとき、僕らはほとんど全速力で走っていたといっていい。

「あっ、彰ちゃん……」

「星華ねえ……」

廊下で美月ねえと陽子にすれ違ったけど、顔を真っ赤にした僕らは、

ただいまの代わりに会釈するのもそこそこに、猛スピードで通過した。

――二人のびっくりしたような表情が、微笑に変わったのをちらっと見たような気がする。

突進した先は――「ばっちゃの機織小屋」、星華ねえの部屋だった。

 

ベッドに並んで腰掛けると、後は、もう流れるままだった。

抑えきれないような感情が、衝動のように後から後から湧き出して、僕らを突き動かす。

それは、死を身近に感じた人間が、種の保存の本能を刺激された結果かもしれない。

僕らは、<挑戦者>の警告と恣意のためだけに、あれだけの大怪我を負わされた宍戸さんの姿を見て、

「本当の標的である自分たちは、殺されるかもしれない」と確かに感じた。

だから、――明日がないのかもしれないのなら、お互いに好きな相手ともっと仲良くなってしまおう、と思った。

子供も、作れるのなら作ってしまおうと思った。

――そうとも言える。

でも、――それだけじゃない。

それがきっかけになって気づいた、お互いへの想いのほうがずっと大きかった。

そうだ。

僕は、星華ねえが好きだった。

星華ねえは、僕が好きだった。

それにたどりつくまで、昨日は、いや、今まで随分まわり道をしてしまったような気がする。

僕は、星華ねえの気持ちが分からなくて、

星華ねえは、僕の気持ちがわからなくて、

お互いがとまどっていたけど、――僕らは、結局あの麦畑の中で、お互い変わらずにいたんだ。

十年間も。

 

(誰かさんと誰かさんが麦畑……)

 

ふいに僕は、どこからか、声が聞こえてきたような錯覚を覚えた。

 

(こっそりキスした、いいじゃないか)

私にゃいい人いないけど、いつかは誰かさんと、麦畑……

 

その歌声は、僕の耳元で聞こえ――すうっと溶けていった。

――多分、「誰かさん」に、「いい人」が見つかったから。

自分の「いい人」が誰だか思い出した「誰かさん」は、その人と恋人になり、

そして一気に「それ以上」になることを望んだ。

 

「んっ……ふあ……んくっ……」

三回目のキスは、今までで一番激しいものになった。

 

星華ねえの服に手をかけたとき、星華ねえは、あ、と小さく声を上げた。

その白磁の美貌には、わずかに朱がさしている。

昨日の晩、自分から脱いだときは――僕の気持ちが読めない焦燥感でそんな余裕がなかったけど、

今は羞恥を感じるだけの余裕がある――僕の想いがきちんと伝わっているから。

だから、それに呼応して、僕の下半身も昨日のような醜態を見せず、雄雄しくそそり立っていた。

目の前の愛しい女(ひと)の望むまま、抱き合いたいから。

痛いくらいに張り詰めた僕の男性器を見て、星華ねえの眼が見開かれる。

「……こんなになるものなの……?」

「星華ねえの前なら……」

「そう……うれしい」

星華ねえはささやいて、僕のそれに手を伸ばした。

 

ベッドに横向きになって添い寝しながら、星華ねえは、僕のおち×ちんをやさしく嬲った。

すべすべした手がなめらかに動く。

昨日は感じることができなかった快感に思わずうめく。

「気持ちいい、彰?」

「うん、すごく……」

「そう。男の子は、性器をこうするといいって聞いた」

「……そ、それって誰に教えてもらうの?」

僕は昨日から疑問に思っていたことを聞いてみた。

「ばっちゃと、母さん。あと美月ねえ」

……三人とも、たしかにそういう事を言いそうな女性だ。

「あと、ばっちゃの古い友達で、柳町でお店を何軒も持っている女の人がいて、その人からも聞いた」

……お祖母さん。あなた、どんなお友達を孫娘に紹介したのですか?

僕が複雑な表情をしていると、星華ねえは小首をかしげてことばを継ぎ足した。

「ばっちゃは、じっちゃが大好きだったから、男の人を悦ばせる方法をその人に教わったんだって」

「……」

「私も、彰を悦ばせたいから、色々聞いたんだけど……うまくいかなかった」

ああ、――なんだか、とても星華ねえらしいや。

僕はくすっと笑った。

「ありがとう。でも、そんなことしなくたって、星華ねえはキスしてくれるだけで、僕をこんなにできたよ」

「……そうなの?」

「そう!」

「……」

星華ねえは表情を崩していないけども、その耳は真っ赤になった。

めったに見れない、恥ずかしがっている星華ねえ。

その姿に、僕のおち×ちんはさらに大きく、堅くなった。

「あ……」

「星華ねえ、僕も、星華ねえの、さわってもいい?」

こくり、とうなずいた星華ねえの下半身に、僕は、どきどきしながら手を伸ばした。

「……」

「……あ……」

水っぽい小さな音が聞こえると同時に、僕の指先は、潤んだ粘膜に包まれた。

僕の想像よりもずっと柔らかい星華ねえのあそこは、びっくりするほどにしっとりと濡れていた。

 

「せ、星華ねえ……」

「……彰のことを考えると、いつも、こうなる」

星華ねえは、僕を見つめてそう言った。

「……」

絶句して見つめ返すと、頬を染めて視線を反らした。

「……今日は、さっき、麦畑でキスしてからずっと、こう……」

ささやくような声に、僕は心臓がさらにどきどきを増すのを感じた。

「あと、その……」

「何?」

口ごもった星華ねえに、僕は思わず聞きかえした。――星華ねえのことなら、なんでも知りたい。

「……彰のこと考えながら、――オナニーしたことも、ある」

「!!」

何事も隠さない星華ねえの告白に、僕は興奮の極みになった。

「せ、星華ねえっ……」

もう一度、キスしてから、僕は、身体をずらした。

首筋や、鎖骨。

なめらかな肌の上に、頬をこすり付けるようにして動いていって、胸のふくらみにたどり着く。

「……」

午前中の柔らかな光の中で、それは、大理石を切り出して作られた女神の彫像のように思えた。

その美を、僕は、僕のものにした。

 

星華ねえの胸元に、顔をうずめる。

透明な硬質感をもって見えたそれは、実際は弾力と柔らかさに満ちたものだった。

胸の谷間に顔を押し付けると、ミントのような匂いが僕の鼻腔をくすぐった。

――星華ねえの匂い。

星華ねえは、僕の頭をぎゅっと抱きかかえた。

乳房の感触と、香りを十分に楽しんだ僕は、星華ねえからゆっくり離れて起き上がった。

ごくりと唾を飲み込む僕が、次に何をしようかわかったのだろう。

星華ねえは、もっと身体をずらして星華ねえの下半身に近づこうとした僕をそっと制した。

「身体の向き、逆にして。――私も、彰のを見たい……」

一方的なクンニリングスではなく、お互いを愛撫するシックスナインのほうを星華ねえは選んだ。

僕は、さっきの倍くらい唾を飲み込んでうなずいた。

二人は、お互いに体重をかけなくて済むように、横向きのまま互いちがいの体勢で寝そべった。

 

間近で見る、星華ねえの性器。

それは、白い肌の中央で、薄桃色に染まっていた。

溶けそうなくらいに淡い翳りとなっている飾り毛とともに、

僕の心臓と脳みそを爆発させるほどに興奮に追い込む。

そおっと指をなぞらせると、くちゅ、とも、ぴちゅ、とも聞こえる小さな音を立てて、

それは中にたまった蜜をこぼした。

僕は、本能に駆られるようにしてそこに唇を寄せた。

「あっ……」

中の液体をすするように口付けした僕の行為に、星華ねえが思わず身じろぎする。

僕はかまわずに星華ねえのあそこを舐めはじめた。

女の子のあそこなんて、見るのも、舐めるのももちろん初めてだったけど、

僕は、僕の物になるように差し出されたそれを思い切りむさぼった。

そして、星華ねえも。

僕が星華ねえの女性器を愛撫し始めると同時に、星華ねえのほうも僕の性器を愛撫し始めていた。

口をあけて、僕のこわばりの先端を口に含む。

「んんっ……んくっ……」

緊張にと不安に萎えきっていた昨日と違って、今日の僕のは限界まで膨れ上がっている。

咥える星華ねえは苦しそうだったけど、やがてコツを覚えたのだろう、

愛撫はどんどんと滑らかなものになった。

 

「んふっ、んぷっ……じゅっ、ちゅるっ……」

甘い鼻息と、唾液を使う音。

そして何より、星華ねえの舌と唇の感触。

しびれるような興奮が、僕の性器から始まって、心臓を通り、脳天に駆け上がっていく。

「せ、星華ねえ……ぼ、僕もう……」

「いくの……?」

「うん……」

「……どこに出したい?」

「え……?」

「どこでもいい。彰の出したいところを言って」

星華ねえの、静かな、でもこちらも興奮しきった声に、僕はそれだけで爆発しそうになる自分を必死に抑えた。

大きく深呼吸をして、答える。

「せ、星華ねえの、ここで、していい?」

 

僕の両手の指先で軽く触れているのは、星華ねえの性器。

僕は、ここに自分のおち×ちんを入れたいということで、つまりそれは――。

「いいわ。――私も最初は、彰とちゃんとしたセックスがしたかった。

彰の最初の精液を、私のここに欲しい」

……星華ねえは、僕以上にはっきりとことばにする。

星華ねえは、くるっと身体を入れ替えて、僕と向かい合った。

目の前に星華ねえの顔が戻ってきて、僕はどきりとした。

「私の腿の間に身体を入れて――そう。手はここに突いたほうがいい……はず」

僕の下で、星華ねえは体勢をいろいろと教えてくれた。

語尾がちょっと懐疑的なのは、星華ねえに教えてくれた人は経験豊富でも、星華ねえ自身には経験がないからだろう。

でも、僕も星華ねえも興奮しきっていたから、そんなことはどうでもよかった。

つぷ。

星華ねえの導くまま、僕のおち×ちんの先っぽは、星華ねえの中心の入り口に当たった。

「そう。……ゆっくり腰を沈めて……」

つる。

ちゅる。

ちゅくく……。

透明な蜜の海に僕の分身が沈み込んで行く。

 

「んくっ……」

星華ねえがわずかに眉をしかめてあえいだ。

「い、痛いの? 星華ねえっ?!」

今更ながら、星華ねえが処女だということを思い出した僕は、あわてて行為を中止しようとする。

「だ、大丈夫……だから、そのままでいてっ……」

語尾がかすれている。

星華ねえは、僕の想像以上の痛みを感じているようだった。

僕はおろおろとなりかけたけど、目を閉じて体内から感じる衝撃に耐えている星華ねえの顔を見て

――それはぴたりと止んだ。

今、星華ねえの耐えていることに対して何かできる人間は、僕一人だ。

僕に何かできることは――。

ぎゅっ。

僕は、星華ねえの手を、自分の手で握った。

全部の指を絡ませるようにして、星華ねえの手を、指を握り締める。

 

星華ねえが、驚いたように目を開けた。

「……」

「……」

そのまま、星華ねえは目を閉じた。

こくり。

目を閉じたままで小さくうなずく。

――それは、星華ねえの、機嫌がいい時のくせ。

星華ねえは、ぎゅうっと僕の手を握りしめた。

右手で。左手で。

「入ってきて、彰」

星華ねえは、僕に行為を続けるように促した。

僕は、愛しい女(ひと)の中に入り込む動きを再開した。

ぐぐっと潤んだ肉を押しのけて奥に入り込んでいくと、

星華ねえが僕の手を握り締める力が強くなる。

 

ぎゅううっ。

星華ねえは、指先が器用で、指の力も、とても強い。

指先が手の甲に食い込むように握り締められると、とても痛かったけど、

星華ねえは、それ以上の痛みに耐えていると思うと、我慢できた。

かわりにこちらは優しく握り返す。

やがて、星華ねえの指先から、すうっと力が抜けて、――僕は、星華ねえの一番深いところに達した。

 

とくん、とくん。

 

心臓から直接聞こえてくるような律動が僕の体全体に伝わる。

やわらかくて、すべすべしていて、あたたかくて、――僕は星華ねえの中心に入り込んでいた。

「……うわぁ……」

僕は思わずため息を漏らした。星華ねえも同じように吐息をつく。

愛しい人と一つになった実感を、僕らはしばらく微動だにせずに味わっていた。

やがて……

僕は、びくっと震えた。

 

「……」

「……どうしたの?」

情けないことに、僕は、――もう、いきそうだった。

星華ねえの柔らかな肉に包まれ、心臓の音とともにゆるやかにうねる律動に触れているだけで、

僕のおち×ちんは、限界寸前まできてしまった。

「……」

唇をかんで耐える僕の表情を見て、星華ねえが手を握っていたのを離す。

そして、その両手を僕の頭の後ろに回して抱き寄せた。

「いきそうなのね。――いいよ。いって」

「でも、星華ねえが……」

まだ絶頂に達してないのに、僕だけがいくことが、僕はすごく恥ずかしかった。

足に力を入れてぷるぷると震えながらそう答えると、星華ねえは下から僕の瞳を覗き込んだ。

「……男の子って、<射精を長く我慢すればそれがいいこと>って思うらしいけど、それ、ちがう」

「え……?」

「女は、相手に愛されてるというのが分かれば、それだけで一番気持ちいい。

――そして、私は彰に愛されてるって、十分感じてる。だから、今、私はすごく気持ちいいよ」

そういいながら、星華ねえは布団につっぱっている、僕の手を撫でた。

星華ねえが強く爪を立てたので、血がにじんでいる僕の手の甲を。

「――だから、今、彰が私の中に彰をくれるのが、一番嬉しい」

「……」

「今、彰の先端が、触れているところ……」

「え……」

「そこ、「精液溜め」。子宮に入れる精液を溜めておくところ。ここに、彰のを、欲しい。

私の子宮に、彰の精子を迎え入れるために……」

甘肉と粘膜の奥にある、生物学的な空間の名称が、限りなく卑猥で神聖なもののように聞こえた。

「せ、いか…ねえっ……!!」

「彰、キスして――」

唇を合わせると、僕は限界に達した。

どくどくと、びゅくびゅくと、ものすごい勢いで射精がはじまる。

星華ねえの一番奥に。

「うくっ……んぐうっ……!」

あまりの快感に、何か叫ぼうとした僕の唇は、星華ねえの唇で塞がれていたから、

僕の声は、星華ねえに吸い取られた。

「ふ、ふああっ……」

唇を離し、荒い息をつく。

はぁはぁと、何度も深呼吸すると、星華ねえも同じように深い息を何度もついていた。

目を閉じた星華ねえの頬は紅潮していて、――体は、ぷるぷると震えていた。さっきの僕のように。

「せ、星華ねえ……?」

「んく……ふう……ふううっ……」

何度も大きく深呼吸をした星華ねえが、ゆっくり目を開く。

その潤んだ瞳のあまりの美しさに、僕はどきっとした。

 

「……私、今、いった。体の奥に、彰の精子、もらって……」

星華ねえは、とろりとした目で僕を見つめた。

見たこともない星華ねえ――。でも僕はそれを昔から知っていたような気がする。

「……彰」

「え……?」

「ごめん。――もう、私、止まらないかも」

ゆっくりと身を起こした星華ねえは、まるで昨晩の<挑戦者>のよう、

――いや、その何倍も何十倍も妖しくて、美しかった。

雌として目覚めた、志津留のヒメ。

僕は、その姿に魅入られた。

星華ねえが、がばっと僕の上に覆いかぶさって押し倒れるまで呆けたようにそれを見続けた。

「彰、アキラ、あきら、あきらあきらあきら……」

星華ねえは、唇といい、頬といい、額といい、所かまわず僕にキスをしはじめた。

もどかしげにさまよう手が、僕の全身を愛撫する。

太ももがうねり、足がようにシーツの上を掻き、僕の足を探り当てると絡みつく。

星華ねえの、突然の変貌は、しかし、僕にとって不快なものではなかった。

それを待っていたかのように、僕の性器が前にもまして硬くそそり立つ。

「うああ……」

僕は上からのしかかる星華ねえに抱きつくと、同じように星華ねえをむさぼり始めた。

僕たちは、唇を、乳房を、太ももを、お尻を嘗め回し、かじりつき、性器をこすりつけた。

(これは、私の雄)

(これは、僕の雌)

互いに互いの所有印をつけながら、僕らは何度も交わった。後から後から欲望がわいて出てくる。

朝ものすごく食べた御飯がそのまま精力と体力に変わっているようだった。

いや、ようだった、ではなくてそのための本能的な準備だったのかもしれない。

最後は常に、星華ねえの胎内に射精する交わりは、それから半日もかけて何度も行なわれた。

 

「……子供、できたよ……」

目を閉じ、うなずいた星華ねえが、ベッドの上でつぶやいた。

あたりはもう夕日が差し込む時間になっていた。

獣のように激しく交わったベッドは乱れてしわくちゃになっていたけど、

その上に横たわり、下腹の上にそっと手を当てている星華ねえは、女神のように神聖で美しかった。

「……わ、わかるの?」

「わかる。――御山が、反応しているから」

それは、僕もさっきから感じていることだった。

まだ精子が卵子にもであっていないはずなのに、この交わりが生み出す子の存在を

お屋敷を下をはしる地脈は敏感に感じ取っていた。

「……この子のためにも、彰のためにも、負けない……」

目を開いた星華ねえは、自分に言い聞かせるように、大きくうなずいた。

「……」

僕は、決戦が今夜行なわれることを思い出した。

星華ねえは、麦畑のときとはまるで別人のような自信に満ち溢れた顔で起き上がった。

「星華ねえ……」

「大丈夫……」

星華ねえは、服を着ようと桐箪笥の前に行きかけ、立ち止まった。

そのまま引き返して、僕の前に来る。

「……やっぱり、少しだけ、不安。彰、ひとつ、おまじないをして」

「おまじない?」

「そう……」

「な、何を……」

「私が彰のものだって、彰が私のものだって、もう一回、印をつけて」

星華ねえは、ベッドに座っている僕の股間に顔を寄せた。

昨晩のように、口で僕のおち×ちんを愛撫する。

ちゅる、ちゅる、ちゅぱ……。

舌と唇で、自分のものである雄を奮い立たせる。

星華ねえのフェラチオに、今日、何度も精液を噴出したはずの僕の性器は、たちまち堅くなった。

「せ、星華ねえっ……!」

「いいよ、出して、彰。――私の顔にかけて……」

射精の寸前、軽く鈴口を吸った星華ねえの舌戯に、僕のおち×ちんは、激しく精液を噴き上げた。

 

びゅくっ、びゅくっ、びゅくっ!

体のどこにそんな精液が残っていたのだろうか、

陰嚢の奥を空にする勢いで、僕は射精した。

すばやく唇を離した星華ねえは、それを自分の顔で受け止めた。

星華ねえの、綺麗な顔が、僕の精液で汚されていく。

女の人が、一番美しく装う、大切な顔が……。

「ああ……」

神聖なものを穢す背徳感――でも、それよりも、その神聖を僕だけのものにしている満足感に僕は震えた。

目を閉じ、僕の精液を受け入れる星華ねえも。

とろり、と白濁の粘液が星華ねえの頬を、額を、髪の毛さえも伝わって流れて行く。

「んん……」

唇の端を流れ落ちようとする精液を、星華ねえの舌が、舐め取った。

「……」

こくん、とそれを飲み込んだ星華ねえが、目を開く。

「……これで、私は、彰のもの。彰だけのもの。彰が印をつけたから」

「……」

「……だから、私は、負けない。絶対に、ここに、帰ってくる。――私は彰のものだから」

それは、僕のもとに戻ってくるという、星華ねえの固い誓いだった。

「星華ねえ……」

僕は立ち上がって着替えはじめた星華ねえの後姿をじっと見つめた。

脱ぎ捨てたズボンのポケットを探る。指先が小瓶と布を探り当てた。

朝、枕元にあったそれを、そこに突っ込んだときから、考えていたことがある。

星華ねえが後ろを向いている間に、その準備を整える時間もあった。

「……星華ねえ……」

「何……?」

「ごめん……」

振り向いた星華ねえの口元に、ハンカチを当てる。

昨日、僕を眠らせた<KURARA>を染みこませたハンカチを。

「――!?」

驚愕に見開いた星華ねえの瞳が、意識の光を失い、とじられていく。

崩れ落ちる身体をささえ、ベッドに横たわらせた僕は、急いで自分の身支度を整わせた。

――外敵と戦うのは、男の仕事だ。

愛しい女とわが子がいる男なら、なおさらのこと。

 

階段を下りて渡り廊下を進むと、母屋との境のところに陽子がいた。

「星華ねえを、頼めるかな?」

「まかせとけってっ! あたしがばっちり守っちゃりますよ、ダンナ!」

「どこの方言だ、それは?」

五分の<兄弟分>は、星華ねえを眠らせたことさえ、言わずに通じる間柄だ。

「ま、後のことは、この陽子マンが引き受けたから彰はどーんと行って来いってばっ!

あ、これ、<当主の大弓>。祖父ちゃんから無理やり分捕ってきた」

「……な、なかなかやるな」

「まーね。さっき廊下ですれ違ったときから、どー考えてもこうなるとしか思えなかったから」

くすくす笑う陽子に苦笑した僕は、大弓を受け取った。

今まで持ったことがない、志津留の力と権威の象徴は、しかし、今の僕には

気負いなく手にするものが出来るものだった。

――今の僕は、当主代行。次代の当主の父親だから。

 

靴を履いて、外に出る。

そこには、夜の帳が落ちかける空の下、白馬を引いた和服の女の人が立っていた。

「美月ねえ……」

「……シロがね、お手伝いしたいんだって……」

「……アオも取り戻さなきゃいけないもんね」

ぶるる、と顔を寄せたシロの頬をなでながら、僕はぎゅっと弓を握り締めた。

「……行ってきます」

「はい。……ご武運、お祈りします。星華も、今日さずかった赤ちゃんも、いっしょに祈ってくれるわ」

「うん!」

シロの上でうなずいた僕は、闇が落ちかけている山頂へと走り出した。

 

 

 

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