<地下8階>

 

地雷原を避けて大きく迂回する道のりは、面倒で退屈なものだった。

レベル3の魔法円からは、羽ばたくたびにたわわな巨乳が揺れるハーピーや、

すすり泣く姿が美しい清楚な美少女バンシー、

あるいは魔物としてよりも副業の娼婦としてのほうが有名なジプシー女などを呼び出せるはずだった。

しかし、地下9階でのできごとを思い出し、ワードナはそれらの召喚を自粛していた。

自分以外の女性型モンスターを呼び出したときに魔女が見せる嫉妬振りは、

悪の大魔道士すらも戦慄させるほどのものであった。

(そんなものなど、わしは別段恐れてなどいないが、小うるさいことは避けるに限る)

心の中でそうごちたワードナは、女性型のモンスターを呼び出すあきらめた。

――そのせいか、魔女はすこぶる機嫌がいい。

一つ下の階層で見せたのが凍てつく地獄の美しさならば、

今の魔女が浮かべる微笑は、春の花園のような美しさだ。

 

「くそっ、ここも遠回りか!」

地下8階はあたり一面に地雷が埋められ、曲がりくねった一本道だけが安全に通れるフロアだ。

一歩一歩慎重に先を探りながら進むしかない。

ワードナが呼び出した魔物たちは、いずれも強行突破に十分な体力を持っているが、

肝心のワードナ本人が、復活したてで十分な体力が伴っていない。

それでも何歩か分くらいの爆発に耐えるだけの力はあるが、わざわざ試しても仕方がない。

第一、老魔術師が怪我をしたら、治すのは魔女の役目だ。

――ディープキスで唾液を飲ませるか、また母乳を全身に塗りたくってくるか、

どんな破廉恥な方法でマディをかけてくるか、わかったものではない。

かくして、遅々として進まぬ行程に舌打ちししながらワードナは迷宮をゆっくりと進む。

 

……いらだちと退屈を忘れるのは、簡単だ。

隣を歩く女に、快楽の道具になるよう命じるだけでいい。

魔女は嬉々として命令に従い、ワードナの期待を超える体験を与えてくれるだろう。

──しかし、悪の大魔道士がそんなことを頼めるものか。

無言で歩くワードナは、足元に集中し、地雷を踏まないことだけを念じて、

そうした考えを頭から振り払おうとした。

だから、「それ」をめざとく見つけたのは、ワードナではなく魔女のほうだった。

「あら、あそこに何かありますわ」

魔女が指差した先は沼地だった。

泥につきたてられるようにして、何か木の棒、いや杖が立っていた。

「あれは──?」

ひげをしごいて考えた後、魔物に命じて取りに行かせる。

泥をぬぐって手にした「それ」に関する知識はあった。

「――<魔女の杖>か」

 

「まあ、いいものを手に入れましたこと」

魔女は、にこにこと笑った。

「欲しいのか? そうか、<魔女の杖>というくらいだからな」

「いえ、私は別に。――わが殿がいらっしゃれば、特に必要はありませんわ」

「何?」

「それは、わが殿がお持ちになられたほうが、楽しめる代物です」

「<魔女の杖>が、か?」

「本来は<ダブ・オブ・ピュース>をつくるための物ですが、別の力もありましてよ」

魔女は意味ありげに笑った。

「……何だ、それは?」

「お知りになりたいですか?」

「ふん、別に聞きたくもないが、知っているなら教えろ」

「……では」

杖を手に取った魔女は、ねじくれた古木の表面を愛おしげになでると、小さく呪を唱えた。

「ぬお!?」

股間をそろりとなでられたような気がしてワードナは思わず前を押さえた。

「何をした……あっ!」

ワードナの目が見開かれた。

微笑を浮かべた魔女が手にしているのは、杖ではなかった。

そして、ワードナは「それ」の形に見覚えがあった。

魔女の手の中にあるのは、ワードナの男根そっくりの木の棒だった。

 

「……」

ワードナは、無言で自分のローブに手を突っ込んだ。

愚かな想像だが、一瞬、自分の男根が切り取られて魔女の手に移ったのかと思ったのだ。

幸いなことに、本物の男根はいつもの場所にちゃんとあった。

「……何の冗談だ」

「これが、<魔女の杖>のもう一つの能力。

いとしい殿方の男根と寸分たがわぬ形になります。

──多くの魔女たちが、この力を使って自分を慰めましたわ」

「馬鹿らしい」

「まったく。でも女は愚かで弱いものですわ。

だから愛しい殿方に護ってもらいたいし、慰めてももらいたいのです」

魔女はしんみりとした表情で手の中の男根を眺めた。

初めて見せるその表情は、おそろしく官能的だ。

「―でも、今の私に、これはまったく必要のないものですわ。

本物の……わが殿のお側にいられるのですもの」

魔女はワードナの股間に熱いまなざしを送りながら言った。

魔女が「本物の」の後に何を言いたかったのか、が一目で分かる好色な視線だった。

「こんなもので、魔女はともかく、わしが楽しめるか」

ワードナは苦々しげに吐き捨てた。

「あら、この杖は女が使うとこの程度ですが、殿方の力も借りればもっとすごいことになりましてよ」

魔女はすっとちかよると、右手をワードナの股間に伸ばした。

左手は木製の男根をもてあそんでいる。

「何を――ううっ!?」

老魔術師の目は見開かれた。

男根から湧き上がる快感が、突然二倍になったかのようだ。

いや、気のせいではない。

魔女の左手で木の男根が脈打つのをワードナは見た。

 

「本物と、<魔女の杖>で作った偽物。どちらからの快楽も、ひとしく本物に注がれますわ」

「……二倍の快楽ということか」

「殿方にとっては願ってもない効果ではありませんかしら?」

魔女はワードナの心のうちを見透かしたように艶然と笑った。

たしかに、この状況になってから、ワードナが考えたことは一つだ。

「……それとわしの物を、貴様のアレとソレに同時に入れたら、どうなる?」

「お試しになりますか?」

魔女の笑みが深まった。

「おお!」

「本物をお使いになられるのは、前と後ろ、どちらがよろしくて?」

「――後ろでしてみたい」

この女とアナルセックスはまだしていない、はずだ。

地下10階での記憶はあやふやだったが、「前」でしたことは覚えている。

好奇心と征服欲が未体験の行為を選ばせた。

「お望みのままに」

魔女は、興奮のあまり珍しく素直な夫に、少し苦笑したようだった。

手早く法衣の裾を割り、下半身の前をはだける。

ワードナの視線が、若草がつつましげに、だが生命力にあふれて茂る場所に釘付けになった。

「あ……」

やっぱり「前」の方がよかったか、とワードナが逡巡する間に、

魔女は木の男根を自分の秘め所にあてがい、内部に導き入れた。

魔女の性器がもたらす快楽に、ワードナはうめいた。

ぬめぬめとした粘膜が、「男」を温かく包み込み、受け入れ、癒し、誉めそやし、

甘やかし、元気付け、射精を促す感覚。

――これが女というものだ。

木の棒を通じて味わうには惜しい、と自分の選択を後悔したワードナは、次の瞬間それを忘れた。

魔女が後ろを向いて白い臀を突き出していた。

 

「どうぞ。私のアナル、「前」とはまたちがったお味でしてよ」

大きく張りのある肉の谷間に、すぼまった孔を見つけた瞬間、ワードナの理性ははじけ飛んでいた。

臀肉を両手で抱え込み、その谷間へ飢えた獣のようにむしゃぶりつく。

肛門に舌を差し入れ、唇を当ててすする。

魔女は嬌声をあげて腰を振った。

魔女の後ろの孔は、排泄のための器官とは思えぬ馥郁とした香りと、

脳天までしびれるような甘酸っぱい味だけがあった。

「ふふふ、美味しいですか? 貴方のために、孔はもちろん、

おなかの中までいつも綺麗にしている体です。たんとお召し上がれ」

この女が、(ワードナの精液を含めて)物を食べたり飲んだりするのを見たことはあるが、

排泄をする姿は一度も見たことがない。

この女が、そんなことを必要とする低級な生物には思えない。

だが、逆に、夫が命じれば野外だろうが人前だろうが何だろうが、

ためらいもなくそれらの行為をしてみせることも間違いなさそうだった。

 

「ああ……」

愛する男に、女として秘所よりも恥ずかしい部分を責められる快楽に、魔女は身を振るわせた。

思わずひざが崩れる。

いや、それさえも、計算のうちだったのか、

下がった臀の位置が、後背位で交わるのにちょうどいい高さになった。

ワードナは口を離し、急いで立ち上がった。

老魔術師の男根は、魔女の杖を通じて味わい続けている女性器からの刺激で、我慢汁をとめどなく流し、

魔女の肛門は、ワードナの唾液でべとべとにほぐされている。

薄桃色のつぼみは、簡単にワードナを受け入れた。

魔女の性器と肛門が、競うようにワードナをもてあそぶ。

「――ふふ、いかが? どちらのほうがよろしくて?」

魔女の質問に、ワードナは答える余裕もなかった。ただ強く突き入れた。それが正解だった。

「ああっ」

止めを刺された虫のように魔女がのけぞる。ワードナは夢中で腰を振った。

何が何でもこの女の肛門に射精しなければおさまらない。

いや、木製の男根から伝わる性器の快感と感覚が入り混じり、

ワードナはもう魔女のどちらの孔を責め立てているのかわからなくなった。

白濁した脳髄でかろうじてわかるのは、自分がこの女を犯しているということと、

この女の中で射精したいという欲望だけだった。

そして、魔女はその望みをたっぷりとかなえた。

ワードナは、魔女の膣と肛門に、思う存分精液を放った。

 

「魔女の杖の力、おわかりになりまして?」

妻の呼びかけに、ワードナはうつろな目でうなずいた。

視線は、杖の形に戻ったそれに注がれている。

「あ、ああ。しかし、こうなると、正直、これを手放すのが惜しいな。

真実の矢を手に入れるために必要になるとはいえ――。いっそのこと、あれは諦めるか」

魔女の膣と肛門とを同時に犯す快楽は、想像以上だった。

「これは、この世に一本きりというものでもありません。

この迷宮にはひとつしかなくても、世界を巡れば何本でも手に入れられましょう」

「……本当か?!」

「ええ、二本でも三本でも。――百本でも」

百本の自分の男根でこの魔女を犯しつくす姿を想像して、ワードナはごくりと唾を飲み込んだ。

性器も、肛門も、口も、女体のありとあらゆる部分を同時に責め立てたら、魔女はどんな反応をするだろう。

想像するだけで男根がうずいた。

陰嚢が空になるまで立て続けに射精したばかりなのに。

これほどまでに何かが欲しいと思ったのは、あのアミュレット以来のことだ。

ワードナは咳払いをして立ち上がった。

「ふむ。たいしたものではないが、集めてみるのも一興だな。とりあえず、これはわしが持っておこう」

「お望みのままに」

 

いそいそと杖をしまいこむワードナを見て、魔女はにんまりと笑った。

魔女の杖は世界中に散らばっている。

夫は、それを多く手に入れるために、いろいろな場所を旅しなくてはならないだろう。

――もちろん、私と一緒に。

新婚旅行は長くなりそうだ。

ひょっとしたら、――永久に続くかもしれない。

 

 

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